大木 祐二
monofarm編集室
編集長
mononfarmウェブマガジン編集長を務め、monofarmの発起人でもあります。
未来のものづくりはどういった「コト」や「モノ」であるのかを通じて、みなさんとのつながりを求めてウェブマガジンを立ち上げました。
monofarmから新しいものづくりの芽がたくさん育つことを目標に活動中。

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東京の山の問題を、豊かなものづくりのアイデアで解決する「KINO」のTOKYO TREE PRODUCTS

みなさん東京の面積の約 1/3 が森林である事を知っていますか?
恐らく東京近郊に暮らしていても、普段東京の山や森林のことについてあまり考える機会がないのではないでしょうか。そんな、東京の山が今大きな問題を抱えています。
この問題に対し、東京岩本町にある株式会社budori(ブドリ)さんが運営されている「KINO」プロジェクトが「東京の山の木を毎日の暮らしへ」という取組を実践しています。
今回は「KINO」のご担当者松本 彩さん(以下松本)と、monofarm 編集室大木(以下大木)との対談形式にて、株式会社budori オフィス内の「KINO へや」よりインタビューさせていただきました。
「KINO へや」自体が東京の山で採れた無垢材を使用しリフォームされているというのですから驚きです。一体、どういった東京の山の問題をどのように解決しようと取組されているのでしょうか?

大木: 本日はよろしくお願いいたします。
松本: よろしくお願いいたします。
大木: まず「KINO」というブランドネームは覚え易く親しみが湧くネーミングだと思うのですが、どういった経緯で名付けられたのですか?
松本: 事業がはじまったときは、名前のないなかスタートしました。ドメインの取得や商品名を検討するなかで、そろそろブランドネームを固めようと、社内でのブレインストーミングから始めたのですが、なんとなくスタッフが日常で使っている「木の…」という言葉がしっくりきていたこともあり、「産まれるっていうことが伝わりやすく、自然ではないか」ということで話はまとまりました。「KINO」に決定した一番の理由としては、ロゴが積み木のように組み替えていけるイメージとなることと、「KINO」の「K」のロゴタイプがミュージックプレーヤーの巻き戻しボタンをイメージしている部分です。昔のかたちに戻ろうではなく、昔の暮らしを知ろうといった想いを込めています。木を植林してから伐られるまで、約80 年。そのあいだ、代々、受け継ぎながら木を育てていくこととなるのですが、植えた人がどんな想いで木を植えたのか…。時間を巻き戻すように過去にさかのぼって先人の想いを大切にしていきたいと思っています。そんなさまざまな意味合いを含めて、最終的に「KINO」というブランドネームに決定しました。
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「KINO」ブランドロゴ

大木: 温故知新ではないですけど、やはりむかしながらの知恵を上手くこれからに伝えながら、ブランドを通じて私達の生活に東京の山の木を入れて、暮らしを豊かにしてゆくことの繰り返しが上手く表現されているのですね。
松本: そうですね。
大木: ブランド理念とされている、「東京の山の木を毎日の暮らしへ」についての取り組みをお聞かせいただけますか?
松本: きっかけとしましては、ここは岩本町で秋葉原なんですけど、ビルが多くて東京の山の問題を普段意識できないといったことからなんですよね。やはり東京の山で生活しているかたたちの想いを、東京都内に持って帰ってくるような、伝わるようなものをつくりたいという想いから始まりました。
東京の山の木を使っていくことが東京の山を守っていくことにつながるという課題があるなかで、それを解決するというのは、「どんどん東京の木を買いましょう」とアピールするよりも、何気なくその人の日常に溶け込むようなものであるといいなと思っています。
例えば、家の中で「いま、あなたの座っている椅子は東京の木なんだよ」みたいな話が広がることってとてもいいなと思います。主張するのではなく、なにげなく身近に自然にある存在になれたらいいな、という想いを込めて「東京の山の木を、毎日の暮らしへ。」としています。東京の山がかかえている問題は、全体が見えないような大きな課題です。どこから関われば良いのかわからず、それで放置されている部分というのもあるように思います。ですので、自分の暮らしのなかに、その東京の山があって「ものづくりのスイッチ」のようなものにもなれたらとも思います。
大木: 東京の山の木をある程度使わなければいけないということは、東京の山を手入れするなかで発生する間伐材を使用して行くといったことなのですか?
松本: じつは東京の山ではまったく間伐できていないのが現状です。本来は主伐する木を育てるために間伐をおこなうのですが、この主伐材は、おもに神社の建て直しや、住宅の建材用として使われることが多いようです。しかし、こういった用途向けの利用が減ってしまっていることが非常に大きな課題なんですね。需要がなければ産業も育ちません。結果的に、東京で林業にたずさわるひとたちも、どんどん減ってしまったと聞いています。そのため、東京の山の手入れができていない状態が続いているんです。
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山の循環をイラストで表現

大木: なるほど。悪循環ですね。
松本: 東京都も助成金を出したり、主伐や間伐を推進しているのですが、他の県と比較するとまだまだ進んでいないのが現状だそうです。
大木: 東京自体があまり木を使われなくなってきてしまったがために、主伐材さえも思うように使用できていないとは大きな問題ですね。
松本: 東京で無垢材を使用した一軒家を建てるっていうかたはもちろん少ないと思うんですよね。公民館のような公共の建築物も、むかしは木造だったように思うのですが、いまではこういったケースも少なくなってきたように感じます。それでも地産地消じゃないですけど、運送費用がかからない土地の木を使ったほうが割安ですし、その土地で育った木はその土地で使ったほうが相性がいいんですよね。
例えば、北海道で育った木をこの土地で使ってももちろん大丈夫なんですけど、やはり東京は東京の山の木を使ったほうが気候や湿度、温度差みたいな条件とか、その土地の環境にあっているので、むかしから良いとされています。この「KINO へや」を見ているだけでも実感としてありますね。
大木: 「KINOへや」は東京の山の問題を、自分たちでも東京の木を使い、みなさんに感じてもらうというきっかけづくりとされる物でもあるのですね。「KINO」の製品を拝見させていただいて、もちろん東京の山で採れた木を使用されているのですが、すぐに使える形ではなく、自分で仕上げるという部分を残されている気がするのですが、それはどういった想いを込めてプロダクトされているのですか?
松本: 自分で完成させるという部分にいろんな要素が入っていて、最終的に想いのこもっているものが使っ ていくなかでも残っていくものだと思うんですね。
私は、小さいころから使っているスプーンがあるんです。プラスチックの柄でキャラクターが描いてあって、柄もかけちゃってるのですが、いまだに捨てられないんですよね。食器など、どんどん増えていきますが、なんとなくそのスプーンは捨てられなくて、使っていたりするんです。見た目とか、かっこよさじゃなくて、やはり想いが入っていたり、そこに思い出があるものは長く使ってゆくものだと思うので、東京の山の木も同じようにみなさんに長く使ってほしいなっていう想いがあります。
あとは自分の手でつくるという部分で、いろんなことがわかってくることがあると思うんですよ。木は、ちょっと失敗しても加工して使うこともできます。インクがついてもヤスリで消せたり。そういう木材が持つ特性とつきあいながら、自分で手入れして育てていくようなものだと思うんですね。
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「KINO」ご担当の松本さん

大木: ある意味、くらしを大切にするが故に、完成の部分はその人に合わせて作って欲しいといった想いが込められているんですかね?
松本: そうですね。もちろんありますね。
大木: ただ単に自分で作ることで、想いが1 削りづつ入ってゆくというだけではなく、10 人いれば10 通りのくらしがあるので、かたちもその人のくらしになじむように作ることができるといったことなのですね。
松本: 木だからこそできることですよね。
大木: そうですよね。木ですと生活して行くなかで、使えば使うほど風合いがでたり、使い方によってその人なりの木の感じがくらしによって出て来るという部分があって、自分の生活の延長線上で東京の山の木を感じられることも素敵ですよね。
松本: ありがとうございます。あとは自分の生活に合わせていろんな物を日々ピックアップして生活されていると思うのですけども、自分が作り上げるものであれば、自分の生活に合わせて作ることができるのでまた新しい感覚ですよね。
大木: 思い出したのですが、私が小学校の時の授業でペーパーナイフを木で作ったんですけど、それを未だに使ってますね。郵便物とか開封する際に使ってます。
松本: あーやりましたよね!
いいですよね。
大木: 引っ越しの際も必ず捨てずに持っていってます。目に付くところに置いてありますね。
松本、大木: そういうのがいいですよね。
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松本: そういう存在になってゆくプロダクトであったらいいなと思っています。
大木: ワークショップもやられているので、人とのつながりが多彩にグラデーションようになっているようにお話をお聞きしているのですが、製品化されるまでにも、人とのつながりや、ストーリーがあったりするのですか?
松本: 「KINO」プロジェクトのきっかけは、製材所のかたとの出会いからでした。製材所のかたはもともと「どんどん木を広めたい!東京の山の木というブランドをしっかり立てて木を売っていきたい!」と強い意志を持たれていました。
私たちbudoriもその想いに賛同しましたが、私たちが目指すところは東京の山のことを伝える入り口だと思いました。「KINO」の商品を通じて、東京の山のことを自分で感じ取っていただいたり、伝える場を作れるような…。そんなプロダクトが必要でした。
つぎに木工所のかたとの出会いですね。「これは何のために作るの?」という所から、一緒に話し合っていったのですが、最初は、なかなか話も伝わらないところもあって。
でも、時間をかけて説明していくなかで、私たちの想いも分かってもらえる部分もありました。「作ってみたよ!」と仕上がりの良いものを作ってくださって。そうしてできた商品を、一緒に広めていこうと気持ちをともにできたようなところもありますね。
大木: お互いにいい立場で無理なくプロダクトされているところが、木のように温かみがあり自然な形で人とのつながりも大切にされているので共感される部分ですよね。
ワークショップでの人とのつながりを通じてなのですが、プロダクトから地域のかたとのつながりや関係性は、どのよう捉えて接して来られていますか?
松本: そうですね、たとえば…。
ワークショップでいうと東京のかたは作ることにすごく興味があるかたが多いんだなと感じているのですが、地方でワークショップをやろうというときに、集まっていただけるのかというところが課題になっています。なので、そういう意味では「ものづくりのワークショップ」に高い関心を持っているひとは多い。多いのですが、その反面、、なかなか日常に「ものづくりの時間」を見い出すペースでみなさん生活されていない現状があったりもしますね。
そして、東京の西と東ではびっくりするぐらい印象が違うという点ですね。
大木: そうですね。私たち(monofarm編集室)はbudoriさん(千代田区岩本町)と奥多摩の中間地点にいる感じで、窓から奥多摩の山々が見えます。
奥多摩のほうは本当に違いますよね。同じ東京とは思えないですよね。
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「KINO」の作るキットプロダクト

松本: 奥多摩で打ち合わせしている時も生活時間が都心とまったく違っていて、本当に穏やかでゆったりしていますね。東京なんですけどここにいると四季が感じられるので、「本当いいわよ~。」とか「何もないけどね。」という話を聞いていて東京駅から2時間くらいで生活が違うんだなと。
どっちがいい悪いではなくて、都心と、奥多摩とをつなげられるような存在ではいたいですね。
大木: やはり東京都内近郊で生活していると、生活のリズムやペースが速いのでゆとりの時間を作ろうと思っても、奥多摩で暮らしているかたのような感覚ではくつろげていない実情はあるかもしれないですよね。そこで、「KINO」のプロダクトやワークショップを通じて暮らしに東京の木を入れることで、暮らしが豊かになるという事が、そういった背景も含めてのつながりなのかなと感じますね。
松本: そうですよね。生活のリズムでいいますと、職人さんはしっかり寝ることも、仕事だったりするんですよね。怪我なく働くためにやはり使ったエネルギーのぶんだけしっかり寝ないといけませんから。
私たちがお付き合いさせていただいている製材所さんは、東京の木を売っていこうと夜遅くまで仕事されているんですよね。製材所の数が減っていて、1ヵ所に仕事が集中してしまうのでそのぶん皆さんお忙しいんです。
仕事が分散されれば良いのですが、製材所を増やせるほど仕事も人も少ないのが現状です。ケガがつきものなので、安全確認をしながら一つひとつしっかり丁寧にやっているので、作業時間が縮められるとかそういう問題ではないので。
「KINO」としても仕事のペースを乱さぬように発注を促す心構えはありますが、どんどん製材所が増えたり、加工するかたが増えることにつながっていければいいなと思ってます。
大木: そのような取り組みを通じた人とのつながりから、共有されたいものですとか、お互いに共有できるような価値観というものを感じられたりしますか?
松本: 今回こうやってお声掛けいただいたこと自体がそういうことだと思っています。
大木: 確かにそうですね。質問しておいて「あっ!そうだな」と。
「KINO」が思い描いているものに、ウェブサイトを通じて私たちも共鳴し取材のお声掛けをさせていただき、そこからこのようにコミュニケートしているということは、これからのつながり方のひとつであり共有価値とするかたちなのかなと確かに言われて気付いた点ですね。
松本: そういうことだと私も感じています。
大木: 私たちのウェブマガジンで、「暮らしを豊かにするこれからのものづくり」というテーマがあるのですが、「KINO」が考えるこれからの“ものづくり”とはどういった形を思い描きますか?
松本: そうですね、東京の山が抱えている問題自体が、それをすべて含んでいると思っています。「暮らしを豊かにするこれからのものづくり」をですね。やはり東京の山にもむかしの姿があって、戦後の日本を復興するために高度成長期という時代を通して、いまの姿があることはもちろんなんですけど、そういった東京の山の過去を知っていくと自分のなかに感謝の気持ちがうまれてきたという部分はありますね。
学校で勉強してきたことですが、それをまた大人になって改めて向き合うことで、より深く理解できたというか…。たとえば授業で歴史とか学ぶとき、「なんでこんなむかしのこと勉強するんだろう」とか当時は思いませんでした?
大木: 思いました。むかしの偉人が物事を達成した年号などですよね。
松本: なんで暗記しなければいけないんだろう。とか当時は思ったんですけど、やはり、誰かと出会ったときにそれを覚えているかいないかで話の広がりというものが違いますし、むかしのことをしっかり知っていることで、これからの話ができるのだなと思います。特にものをつくっていると思うのですが、物質的な豊かさってあると思うんですけど、食べきれないくらい食べ物に囲まれているのが幸せかというと、やはりそうじゃないと思うんです。
そういうことではなくて、大木さんが話されていたペーパーナイフじゃないですけど、遠足で食べたおにぎりですとか、記憶に残っている「こと」や「もの」がたくさんあるということが、くらしを豊かにしているということだと思うんですね。
大木: 記憶に残っている「こと」や「もの」がたくさんある、ということがくらしを豊かにした結果なんだということですね。なるほど~。大きなことを考えて「くらしを豊かにするぞ!」っということではなく、些細なことでもいいからそれが振り返った時に記憶に残っていて、それをまたこれからに伝えてゆけるというものが多ければ多いほど結果的には豊かな暮らしであると。感慨深いですね。

「KINO」東京の木とやまのおはなし /動画:シミズタカハル、音楽:宮内優里、制作:budori

大木: 最後となるのですが、「KINO」がめざす今後の展望や、取り組みについてお聞かせいただけますか?
松本: いま、「つくるキット」を中心に「KINO」は展開しているのですが、やはり東京の山の木を正常に保てるほど、木を使用できていないのが現状です。山を維持するためにたくさんの人に木を届けるということが「KINO」を始めた目的でもあるので、それを叶えるようなプロダクトを今後もリリースしてゆく予定です。「KINOへや」のような内装をもっと気軽に手軽に自分で組み立てられるようなキットを販売して行く事も考えています。なかでも、一軒家を建てるという事も私たちの目標であるので、叶えてゆきたいです。
大木: いいですよね。「この家は東京の山の木で建てた『KINOいえ』です!」っていうのを見てみたいですよね。
松本: きょう、私たちの「KINOへや」にいらしていただいていますが、この「KINOへや」は、東京の山の木を体感していただくことが目的です。でも、実験的な側面もあって、はたしてオフィスに無垢の木を使うということはどうなのか。やっぱり最初の1年は、発見と驚きと、そしていくつかの失敗を積み重ねて…。この経験を活かして皆様の暮らしに届けられるようにしていきたいですね。
手作りキットは人とのつながりができるプロダクトなので、今後はワークショップの先生講習や講座を開いて、地域との新しいつながりを生み出せようなプロダクトにしていく予定です。
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「KINOへや」

いかがでしたでしょうか?
自分の身の回りのことに少しでも目を向けるとこんな大きな問題があることに改めて驚きを感じたと共に、一重に東京の山の問題としてくくるのではなく、地域や、東京都心・近郊で暮らしているかたがたの生活を豊かにする事をも課題と捉え、解決してゆく姿勢にとても共感を覚えました。

「KINO」のご担当者の松本さんも、東京の山のことという大きな問題に対して立ち向かって行くのではなく、問題と共存して行きながら無理なく解決に向けて取り組もうとする姿がとても印象的で、小柄ではありますが、すくとすくと育った木の幹の様な強さとあたたかさを感じる素敵なかたでした。

みなさんも、ちょっと東京の山とつながってみてはいかがですか?

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