大木 祐二
monofarm編集室
編集長
mononfarmウェブマガジン編集長を務め、monofarmの発起人でもあります。
未来のものづくりはどういった「コト」や「モノ」であるのかを通じて、みなさんとのつながりを求めてウェブマガジンを立ち上げました。
monofarmから新しいものづくりの芽がたくさん育つことを目標に活動中。

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デジタルなテクノロジーでみんなといっしょに「こしらえる」。世界に開けた家内制機械工業「FabLab Japan」。
現在「FabLab」は世界60カ国以上に広がり、国内では「FabLab Japan」として16箇所もの「FabLab」が立ち上がっています。「FabLab」の大きな特徴は、日常生活の中で生まれる様々なアイデアを、世界中の「FabLab」とネットワーキングしながらデジタルテクノロジーを使って形にできてしまうことにあるようです。今回はそんな皆さんの身近な存在でいながら、世界中のアイデアとつながれる「FabLab」についてです。

「FabLab Japan」創始者の1人であり、慶應義塾大学 環境情報学部 教授の田中浩也さん(以下、田中教授)に、お話しをうかがいました。

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「FabLab Japan」創始者であり、慶應義塾大学 環境情報学部 教授の田中浩也さん

まず、田中教授と「FabLab」との出会いはどのようなものだったのでしょうか?


post_strong_01 「FabLab」を知る以前の話ですが、2000年代中頃、私は幼いころから期待してきた情報化社会に対し閉塞感を感じはじめていました。「スクリーンの中だけの世界になってしまうのでは?」と。例えば学校に行っても学生同士がパソコンに向かっていてとなりの人と会話もしない。そもそも授業に来ないとか。このままデジタルな環境だけが加速してもハッピーな世界になっていかないのでは?と、工学者として研究を続けることに迷いを感じていました。
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と話す田中教授自身も、1995年の大学生当時は、インターネットにインパクトを受け、現在の学生と同じように歩んで来たと言います。

そして、田中教授が2008年に、何気なくWebページを辿っていたところ、偶然「世界ファブラボ会議(FAB5)」がインドで開催されるニュースと出会います。


post_strong_01 その時直感的にそこでひらめいたんです。「デジタル技術を通じてフィジカルなものをつくる。これがもしかしたら情報化社会の次のフェーズをつくるのではないか?」「すごく重要なものなのではないか?」と。そして、神がかり的に「行かなければならないのではないか?」とも感じ、すぐさまメール連絡をし、インドで開催される「FabLab会議」に参加したことが「FabLab」との初めての出会いとなります。
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田中教授の「FabLab」との出会はWebニュースから衝動的にインドへ行かせるほどの衝撃的なものであったようです。その衝撃的な出会からはじまり、現在では「FabLab Japan」の創始者として活動され、国内でも多くの「FabLab」が展開されるまで広がりを呈しています。

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FabLab Kamakura 神奈川県鎌倉市扇ガ谷1-10-6 結の蔵 壱号室

今年で6年目を迎える「Fablab Japan」ですが、立ち上げ当初とくらべどのような環境の変化があるのでしょうか。


post_strong_01 もちろん、6年前はほとんど国内において「FabLab」について知られていなかったのですが、その後「FabLab Japan」の活動が始まり、わたしたちも翻訳や書籍の執筆、シンポジウム、国際会議の誘致など積極的な活動をしてきました。今日本では公式の「FabLab」は16箇所あり準備中のものもあわせると30箇所程あります。さらには「Fab Cafe」や、「FabLab」が少し拡張された「Fab施設」「ファブスペース」と呼ばれたりする活動もふくめると、日本中に約200以上の施設があるようです。この6年間で、「ものすごい勢いで広まったな」と感じています。
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そもそも、私たちと「FabLab」はどのような関係であるのでしょうか。


post_strong_01 野口 悠紀雄さんの著書で有名な「ジェネラル・パーパス・テクノロジー(汎用技術)」という本があります。パーソナルコンピューターもインターネットもジェネラル・パーパス・テクノロジー(汎用技術)だと思うんです。別にパーソナルコンピューター自体に目的があるわけではないんですよ。使う人によって使われ方が無限に多様なんです。例えば、パソコンでゲームしかやっていない人もいれば、メール書いたりSNSをしていたり、ビジネスをしている人もいるわけです。テクノロジーの使用目的がその人次第になるような、汎用性の高い技術の事をジェネラルパーパス・テクノロジーと言います。「FabLab」もその一つなのです。だから、使用目的は多岐にわたっています。使う人が「FabLab」をどう扱うかによるなかで意味づけが決まるという関係性です。さらにいえば、「FabLab」は、「目的を一緒に探す場所」なのかもしれません。
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使用目的は使う人次第で無限に多様となる「FabLab」。さらには世界中の「FabLab」とネットワーキングされ、お互いのFab(アイデアや設計)を共有できる関係性もあるようです。


post_strong_01 そこが、スタンドアローンの市民工房と、世界にネットワークされた「FabLab」との最大の違いとなります。地域の市民工房は過去からたくさんありますが、世界で工房のネットワークとなり、ここまで広がりを持って持続的に活動しているのは今のところ「FabLab」のみでしょう。そのネットワークで活動しやすくしているのが、デジタルファブリケーション機器という共通言語なのです。
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post_strong_01 共通の機材を持っていて、かつデジタルデータから物が作れるので、他のファブラボにデジタルデータをメールで送れば他国の「FabLab」でも同じ物を原理的には作れることになります。それは、コラボレーションがしやすいということでもあります。
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FabLab Tsukuba | FPGA-CAFE 茨城県つくば市天久保2-9-2 リッチモンド2番街2F

世界とのコラボレーションが活発に行われながら新たなFabが誕生している「FabLab」。このことから、日本のメーカーが衰退傾向であるなか、「メーカーズムーブメント」による「スタートアップ」や「日本のものづくり」の活性化を後押しするような「FabLab」のイメージはあるのでしょうか。


post_strong_01 まず「日本のものづくり」という言葉のイメージが良くないのだと思います。
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田中教授はその理由に、「FabLab」の3つポイントがあると言います。


post_strong_01 1つは、「日本のものづくり」イメージは物質的な「モノ」に価値が宿るというイメージが強いのですが、最近のスマホとかいわゆるIoTと呼ばれるものは、「モノ」のなかに電子的な機能がついていてソフトが動いてサービスを届けています。ユーザーに対して価値を作っているのはこの「サービス」なんです。そこに真の価値が生まれているわけです。物質的な「モノ」は、サービスを運ぶための、乗りもののようなものです。ここをしっかり理解できないと、「スマホ」が好例のように、日本メーカーは海外メーカーに負けて来たと言えます。この意味でいえば、「FabLab」は、単なる物質的なモノづくりに回帰する場所ではなく、これからの新しいIoTの可能性を試す実験場でなければならないと思っています。だからこそ「ネットワーク」という概念を大切にしますし、外装だけでなく、電子回路をつくれる環境も揃えています。
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post_strong_01 「FabLab」ではいわゆるIoTデバイスやスマートなデジタルやネットワークと結びついたむしろ「サービス」が価値を産むような新しい産業を作って行くということに1つポイントがあります。そのためには、ものの設計図は積極的にオープンソースにして無償で公開するということだってあるでしょう。最終的に価値を持つのが「サービス」なのであれば、そういった、これまでには持ちえなかった発想も可能なのです。
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確かに、私たちがイメージする「ものづくり」という言葉には物質的な「モノ」のイメージがあるのではないでしょうか。しかし、大切なのは物質的な「モノ」の中に収められたソフトウェアであり、それが機能し私たちの暮らしを快適にしており、そこに真の価値があると田中教授は言います。

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今回取材場所となった慶應義塾大学SFC研究所に設置されたデルタ型3Dプリンタ。その大きさに目を見張る。


post_strong_01 2つめのポイントは、「メーカーズムーブメント」と「FabLab」がもしかしたら違うかもしれない点です。これは完全には分けられないかもしれませんが、「FabLab」はユーザーが何を生活のなかで本当に必要としているのかを重視した「使う側起点」なんです。「メーカーズムーブメント」は「どんどんつくろう!という作りたい人起点」となります。いままで日本はサプライサイドが強く、供給側の生産の論理でドンドン生産し、それをただ単に消費者が買うだけの構図がありました。しかし今の時代は、消費者が生活のなかで「あったらいいな」と思う物でないと買わなくなりました。メーカーと消費者がかみ合わなくなってきているということです。「FabLab」は、そこでニーズやウォンツを抱えているユーザーの視点を大事にしていて、人がどんなものを使いたいかと発想するところを出発点にしています。
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同じデジタルファブリケーションで広がりを呈する事象でも、ユーザー起点とメーカー起点では、若干の違いがあるとのことです。


post_strong_01 最後の3つ目のポイントは、「FabLab」はインターネットが95年に出てきたときの情報産業の議論と似ているということです。インターネットビジネスの帰結は2つあります。1つは、IT企業(ネット産業)という新たなジャンルが勃興したこと。2つ目はそれとは別に、例えば地方の八百屋さんが自分のウェブサイトを作って野菜を世界に対し発信できるチャンネルをつくったり、地域の病院がウェブサイトを持ったりと、もともと存在した商業・産業・施設がインターネットによって、今までとは違うチャンネルを持ち、すこしづつ未来に向けてアップデートする役割をインターネットが果たしたということです。
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post_strong_01 ハードウェアスタートアップのように、個人や少人数のチームが新しいものをつくって売っていく直接的でわかりやすいビジネスとは別に、他方「FabLab」で今面白いと思うのは、地方の農家さんが3Dプリンタを使ってグッズをつくっているとか、地方の花屋さんがレーザー加工機でアクセサリーを作っているとか、伝統工芸の方が3Dプリンターで漆塗りを塗っているとか、従来からやってきたビジネスの延長線上にうまくデジタルファブリケーションを取り入れて、アップデートし、新しい時代のことに取り組んでいこうとしている人たちがいて、そっちの動きを見過ごしては行けないのではないかなと思っています。特に地方創生でそういった挑戦が多様に花開くとよいと思うのです。
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地域で昔から生業をされてきた方たちが、各地域の「FabLab」を通じてデジタルファブリケーションと出会い、新たなチャレンジを創出する場となっていること、そうなって行くことが今後一番大切な事と田中教授は言います。

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「FabLab Japan」ロゴマーク


post_strong_01 新しいイノベーションを産むには「かけ算」が必要だと思うんです。デジタルファブリケーションの良いところは、あまりこれまでデジタルテクノロジーの恩恵が入って来なかった領域、例えば1次産業の「農業」とか、「林業」とか、「介護」などの領域に様々な形でアプローチできるため、都市部よりも課題の多い地方の隅々でやれることの可能性が大きいことだと思います。そう考えると、これからの5年は、「課題解決型のFabLab」を増やしていくべきなのではないかと個人的にプランを練っています。病院の中に「FabLab」を作ったり、畑の中に「FabLab」をつくったり、森のなかに「FabLab」をつくったりと、より「もともとあったリソース」との「かけ算」が起こりやすい状況を今後たくさんつくって行ければと考えます。そうすれば、都市部にある大型のデジタルファブリケーション施設とは別の世界が開けていくと思うのです。
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田中教授の著書、「FabLife」の中で「Fab」を表現する言葉に「こしらえる」がしっくりくるとつづられており、「FabLab」はまさしく皆で「こしらえる」場所となるようです。


post_strong_01 「こしらえる」には、つくる必要がある「モノ・コト」は共有され、人と人とが集まりスキルをあわせてつくりだしていくという意味がある。それはかつての家内制手工業にも同じくあったであろう感覚と空気であり、私たちはデジタルなテクノロジーの上で、ふたたび「こしらえる」のだ。(出処:田中浩也著「FabLife」)
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