大木 祐二
monofarm編集室
編集長
mononfarmウェブマガジン編集長を務め、monofarmの発起人でもあります。
未来のものづくりはどういった「コト」や「モノ」であるのかを通じて、みなさんとのつながりを求めてウェブマガジンを立ち上げました。
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東京都立田無工業高等学校発! 「神輿プロジェクト」から学ぶ「‘ものづくり’の本質」と「‘ものづくり’の楽しさ」
日本の伝統文化であります「お祭り」にかかすことのできない神具、「神輿」があります。その「神輿」を自分たちで制作しようと立ち上げた「神輿プロジェクト」の取組を今回取材させていただきました。

東京都立田無工業高等学校の生徒、三浦 伸晃君(以下三浦君)と高田 慎太朗君(以下高田君)、そして関戸 亮先生(以下関戸先生)の3名が「神輿プロジェクト」メンバーとなります。この「神輿プロジェクト」は建築同好会の取組の一貫で立ち上がったプロジェクトです。建築同好会は、授業時間外で取組まれる‘ものづくり’を通じて、「建築技術向上」を目指す有志の集まりで形成されます。そこには生徒、先生の他、市民講師の方々も参加されています。そもそも、なぜ「神輿」制作を題材とされたのでしょうか?

post_strong_01 体育祭の部活対抗リレーで、建築科のパフォーマンスとして「神輿」を担ぎたい想いから始まりました。 post_strong_02

三浦君と高田君は今年3年生で最後の体育祭に向けて、制作しようということで発足した「神輿プロジェクト」です。

post_strong_01 2年前の体育祭で行われたクラブ対抗リレーに、単管を組んで作った神輿で出場したことがきっかけでした。その後、せっかくなら木材を使って本格的な神輿を作ってみようかとみんなで考えるようになりました。「神輿」を制作するうえで、使用する木材は実習で余った廃材を使うので、かかる材料費は実質ゼロ円なんです。
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東京都立田無工業高等学校 機械科・建築科・都市工学科 関戸先生

と関戸先生は言います。いまある状況を最大限活かし、その中でさらに強みを発揮できる‘ものづくり’プロジェクトであることに大きく共感でき、広く共有されるプロジェクトであると感じます。そのなかで、「神輿」といういままで作ったことがないジャンルで、しかもレベルの高い技術を要する内容でもあります。いったい、制作期間はどのくらいを予定していたのでしょうか?

post_strong_01 当初は去年の夏休みから始めて一年間で制作しようと思っていましたが、まずは文化祭に展示することを目標としたので、簡易的な「神輿」を1ヶ月間の夏休みだけで作るものと決めてスタートしました。 post_strong_02

1ヵ月後の文化祭に展示し、1年後の体育祭で担ぐことを目標にし、三浦君と高田君は夏休み中毎日2人で試行錯誤しながら、「神輿プロジェクト」に没頭して行くこととなります。「神輿」を制作する上で参考とする様な雛形図面は、なかったというのですから「神輿プロジェクト」の難しさを感じます。あるものは、数点の写真のみです。高田君が図面を起こす担当であり、パーツ毎に原寸図面をひきながら徐々に三浦君とデザインを決めて行く作業となります。「高田君は、元々図面を引くのが得意なのですか?」という問いに、

post_strong_01 やってみると、結構得意かもって気付きました。 post_strong_02

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東京都立田無工業高等学校 建築科 高田君

と照れながら答える姿がとても高校生らしくもあり、逞しくも感じます。数点の写真だけを頼りに、原寸図面を出す事自体大変な作業と先生は言います。そして「神輿」をつくるには独特な伝統工法も必要とされるため、「神輿」制作の経験がある市民講師で宮大工の工藤さん(以下工藤さん)に、一度みていただくこととなります。プロジェクトがスタートした1ヵ月後の事です。

post_strong_01 「全然違うぞ」と。「これは神輿なのか?」みたいな感じでしたね(笑)。ここに長押(なげし)が入って、ここには欄間(らんま)が入って、ここに平桁(ひらげた)が入ってなど、事細かに教えていただき、まずもって「升」がないと神輿じゃないよと言われました。 post_strong_02

「神輿」を作る上でかかせない、「升」と言われる部分が欠落していた事が、本物の「神輿」の作りと大きく異なっていた点だったようです。工藤さんは週に一度、しかも金曜日の放課後1時間程度しか時間がとれなかったため、基本的には三浦君と高田君の2人で、工藤さんに言われたことを頭にインプットしつつ考えて計算し、そこから図面やデザインに落し込む作業をこなしました。工藤さんよりアドバイスをいただくこととなってから、どのくらいで現状のカタチまで持っていったのでしょうか?

post_strong_01 約3ヶ月です。2人(三浦君と高田君)が毎日夜9時位まで残って制作してましたけどね。 post_strong_02

「2人(三浦君と高田君)は苦ではなかった?」という問いに対し、

post_strong_01 その時は時間を忘れて楽しんでやっていたので、全然苦ではなかったです。ちょっと眠いぐらいです。(笑) post_strong_02

細部に渡りこだわりを感じる「神輿」から、楽しみながら没頭した状況が見て取れます。「神輿」の要である「升組(ますぐみ)」を担当したのが三浦君です。「升」と言われる約120個の同じカタチの部材を1個づつ切り出し組んでゆきます。

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「神輿」の要とされる「升組」

post_strong_01 制作する上で、普通の建物のサイズではなくミニチュアサイズなので、精密さを要求されるので神経を使いました。金物(釘等)や接着剤は使いたくなかったので、木の素材その物で組んでゆくことに拘り制作しました。 post_strong_02

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東京都立田無工業高等学校 建築科 三浦君

実際「升組(ますぐみ)」は竹串を使用し組まれています。芯に竹の杭を入れてバランスをとっているそうです。「升組(ますぐみ)」だけではなく、全体的に金物(釘等)が使用されていないため、木の素材だけで統一されており洗練されたイメージでとてもきれいな仕上がりを呈しています。 そして、全体的な印象を引き締めている屋根を担当したのが高田君です。屋根に使用されている垂木も、100を超える数となり、さらに二重構造になっています。これも全て計算し組まれています。

post_strong_01 屋根の「反り」や「勾配」を出すのが特に難しかったです。「反り」の感じが屋根の真ん中あたりと、下のほうでは全く違うので、統一された形で組むことができません。なのでこの「反り」や「勾配」を出すことにとても拘りました。勝手な自分のイメージからだったのですが、いろんな比率で、いろんな角度で、いろんな形の屋根を描いて見て、その中で一番しっくりきた「反り」と「勾配」を作り上げました。 post_strong_02

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「神輿」の全体的な印象を左右する屋根の「反り」と「勾配」

この屋根の「反り」や「勾配」が「ある」と「なし」では全体的なイメージに雲泥の差が出ます。ここには、技術もさることながら、「反りがんな」などの特殊工具も用いられています。こういった道具もまた、伝統工法の中で受け継がれて行くものとなります。

「欄間(らんま)」に施された彫刻も立派です。モチーフに四神(しじん)が起用され、方角を司る霊獣であり季節神としても有名です。東(春)の青龍(せいりゅう)・南(夏)の朱雀(すざく)・西(秋)の白虎(びゃっこ)・北(冬)の玄武(げんぶ)とされます。

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東(春)の青龍(せいりゅう)

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南(夏)の朱雀(すざく)

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西(秋)の白虎(びゃっこ)

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北(冬)の玄武(げんぶ)

彫り方もそれ相応の技術が要されるため、市民講師である木下さんより、彫り方を教えていただいたとのことです。学校での作業が終わった後、家に持ち帰り週末に三浦君と高田君は彫っていたようです。「この「神輿プロジェクト」を通じて、次にやって見たい事などありますか?」という問いに対し2人(三浦君と高田君)はこう応えます。

post_strong_01 神輿を作って見て、やはり木を組んだりすることは楽しいので、これからも技術を学んで行きたいと思います。(三浦君) post_strong_02

post_strong_01 僕も同じで、いろんな組み方に挑戦して、神輿で学んだ組み方とはまた異なる工法を学んで、いろいろと作って行きたいと思います。(高田君) post_strong_02

post_strong_01 ここは工業高校であるので、作る拘りや、みんなが作りたいというものをどんどん作らせてあげたいと思います。この2人(三浦君と高田君)は大工希望なので、「神輿」というテーマであったと思うのですが、一つ下の学年の子などは、「本棚」を制作していたりします。ですので個々の作りたい物を作らせてあげることに私は拘りたいです。自分の作りたい物を作ることで、‘ものづくり’における自信も生まれますし、なにより達成感を一番実感できると思います。たった3年間の短い高校生活の中で、しかも放課後の空いている時間を利用し、建築の授業以外で‘ものづくり’に携わるということは、 大きくステップアップできる機会にもなります。 post_strong_02

と関戸先生は言います。今、日本の‘ものづくり’における技術力が問われるなかで、日本のメーカーが衰退傾向であり、さらに良い技術は海外に出て行ってしまう現状もあります。そういった中で、昔ながらの技術をこれからの技術へ活かすための橋渡し的な重要なパートを関戸先生は担います。

post_strong_01 やはり、建築でも今はプレカットなんです。そうなると、大工の技術が衰えますし、向上してゆかないので、実際に作業をして見ることが一番大切なことだと感じてます。この「神輿プロジェクト」もそうですし、新2年生の「本棚」もそうなのですが、まずは自分達でやってみてそして一度失敗してもらって、その経験が一番自分の経験値になって行くと思います。 post_strong_02

こういった先生の想いが伝わって、三浦君と高田君は‘ものづくり’が楽しくて時間も忘れて没頭できた結果なのだと感じます。

post_strong_01 一人一人の拘りと、僕にはこういう技術がありますと言えることが大切だと思うんです。昔の職人の方々は機械の無いなかで‘ものづくり’を行って来ました。もちろん機械であれば綺麗に作れるのですが、やはりその手前に「手」でものを作ってきた歴史があります。現代でも同じようにやればできる事だと経験させてあげることが、これからにつながりそしてこれからもつながる‘ものづくり’だと思うんです。 post_strong_02

そこには、アナログ技術が活きてこその、デジタル化の推進へつながるという強いメッセージを感じました。これからの技術だけではなく、日本の伝統を残していくことがこれからの‘ものづくり’に繋がる礎となっていきます。この「神輿プロジェクト」は「東京都建設系高校生作品コンペティション2013」において、工芸部門の最優秀賞を受賞しました。しかし、実はまだ「神輿」は完成にはいたっておりません。

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「東京都建設系高校生作品コンペティション2013」において、工芸部門の最優秀賞を受賞

post_strong_01 屋根が空いているのは「ここにはこういう技術が使われているんですよ」といった事を伝えたいためと、見る人の目が行くようにアピールポイントとしてあえてあけています(笑)。今はまだ、屋根の上に「鳳凰」を乗せていないんですよ。これを今年の体育祭までに制作し、また今年度のコンペティションに完成したものを出展する予定です。 post_strong_02

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屋根の上に「鳳凰」が飾られ完成(屋根が空いているのは構造を見てもらうため)

その後の「神輿プロジェクト」として関戸先生は考えます。

post_strong_01 私の想いの部分ですが、できればあと半世紀後、学校が100周年を迎えるまで残したいです。50年後にまた来て「神輿」を修復して100周年を迎えようと。その時はこの2人(三浦君と高田君)も67・8ですのでもうベテランだと思いますしね。 post_strong_02

今後、今の三浦君と高田君と同じ位の年の子が「神輿を作りたい」と言った時、今度は2人(三浦君と高田君)で教えていけるのでこれほど頼もしい事はありません。そして、2台目、3台目と「神輿」が作られ技術継承されていくことを考えるとこれからが楽しみですし、とても素敵なことと感じます。現に関戸先生が浅草で神輿屋さんなどを回った際、継承者がいなく「神輿」を作れる職人は一握りといった現状もあるとおっしゃっていました。やはり「神輿」の図面などはなく、技術は代々継承して残っていくものだそうです。この「神輿プロジェクト」を通じて、三浦君や高田君は「神輿」制作の技術をある程度習得することとなりました。それは、ある意味「神輿」制作における伝統工法の継承者育成にもつながったことにもなります。

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東京都立田無工業高等学校「神輿」プロジェクトメンバー(左から関戸先生、三浦君、高田君)

今後も、2人(三浦君と高田君)の活躍から目が離せないと同時に、笑顔の絶えない関戸先生の教えの元、「‘ものづくり’の本質」と「‘ものづくり’の楽しさ」を追求し学んだ若きエンジニアが、自分の得意とする技術を手に、これからも巣立って行きます。

東京都立田無工業高等学校

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