大木 祐二
monofarm編集室
編集長
mononfarmウェブマガジン編集長を務め、monofarmの発起人でもあります。
未来のものづくりはどういった「コト」や「モノ」であるのかを通じて、みなさんとのつながりを求めてウェブマガジンを立ち上げました。
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ITベンチャー企業「TheDesignium」がめざす、地方発から日本の最先端へ
地方発のベンチャー企業が今、センサーデバイスを代表とする技術革新の中心となり活躍されています。取材を通じ分かってきたことは、テクノロジームーブメントの発端の一つは、地方発であるということ。

今回取材させていただいたのは、福島県会津若松市よりITベンチャー企業としてスタートアップした、「TheDesignium(デザイニウム)」の秦 優さん(以下「秦さん」)にお話をお聞きしました。

秦さんは、「TheDesignium」の取締役を務めるかたわら、先日取材させていただいたTMCNの幹部としても活躍されます。学生時分は、日本初のコンピュータ理工学専門大学として有名な会津大学にて基本的なプログラミングを習得した後、同大学中退。その後、マーケティングを勉強するため単身渡米し、いろんなビジネスをされたようです。

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「TheDesignium」秦 優さん

秦さんが現在務める、福島県会津若松市よりスタートアップし今年で11年目を迎える、「TheDesignium」との出会いについてお聞きしました。

post_strong_01 「TheDesignium」の前身は、もともと会津大学の後輩がやっていたサークルだったんです。そのサークルは、3DCG映画などを作ったりしていましたね。それがそのまま福島県会津若松市よりベンチャー企業としてスタートアップしました。僕がアメリカから日本へ帰ってきた時は、企画制作やディレクション、たまにコードも書くような仕事をしていて、僕から「TheDesignium」へ仕事を依頼するような間柄だったんです。
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続けて、秦さんは話します。

post_strong_01 そもそも僕が日本へ帰ってきて1年くらいして、「TheDesigniumとしてある企業の口座アカウントを作らないといけない」との相談があったんです。その頃は、資本金1円とかでしたので、私が資本金出資者となり増資し取締役となった感じですね。先ほどもお話しした通り、その頃の「TheDesignium」は3DCDなどのコンテンツを作ってはいましたが、地方ではなかなか3DCGコンテンツの受け入れは難しく、ましてや学生上がりで企業とのパイプもその頃はなかったんです。
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とはいえ、創業当時のメンバーは皆、会津大学のコンピューター理工学部出身で、IT系のバックグラウンドがあったため、ハードウェア・ソフトウェアにおけるアルゴリズムは徹底的に勉強されていました。そのためITに対し多彩な対応力があるため、時代に即したウェブ系のシステム構築やサイト制作、SNSゲームなどのアプリ開発、デバイスを制御するプログラミングなどはお手の物であり、当時からIT系全般の仕事は問題なくこなしていたため会社として自立できていたようです。

地方発のITベンチャー企業「TheDesignium」が力を入れて推進する事業の一つとして、センサーデバイスを使用したテクノロジーがあげられます。Kinect(キネクト)などの代表的なセンサーデバイスが出回る前から、汎用カメラ等をつかい様々なインタラクションをおこなっていましたが、その当時は開発コストが高額だったそうです。「Kinectハック(Kinectセンサーデバイスのハッキング)」ができるようになってからは、開発コストが格段に下がりインタラクションの活動の幅が格段に広がり、いまでは首都圏の最前線で活躍されるITベンチャー企業でもあります。そこには、会津若松市行政の地方創生への取組とも関係があるのでしょうか。

post_strong_01 「TheDesignium」は、会津大学よりテクノロジーノウハウを持った人材が多く排出され仲間同士つながり、そして地方からのベンチャー企業としてスタートアップしました。そこには、会津大学が開校されたころから会津若松市の行政にITを推進する部署ができ、地元のベンチャー企業とのつながりからどのようにITビジネスが地方にメリットをもたらすのかを模索し、推進されてきた結果でもあるとも感じています。
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東北沖地震の際は、地方の大手企業は被災による影響は甚大なものだったようです。その点、「TheDesignium」のようなITベンチャー企業はフットワークが軽いため、ほぼ影響なく会社として機能していたといいます。その頃から、会津若松市の自治体と取り組む機会が増え、IOT(Internet of Things)やMakers(MAKERSの著者、クリス・アンダーソンにより定義されたデジタルファブリケーションによる「第三の産業革命」とも言われる言葉)の動きにも後押しされながら、「Fab蔵」の立ち上げや、会津大学とのコンソーシアムを形成し、「オープンアップラボ(3ヶ月でアプリケーションを作り学べる場)」として人材を育てる場づくりも推進されるようです。

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「Fab蔵」:Fab蔵は、会津若松市にできたものづくり支援Lab。3Dプリンターやレーザーカッターを使用したデジタルファブリケーションはもちろんのこと、アルディーノなどのマイコンボードを使用したワークショップ・ハッカソンなども開催される。(営業時間:9:00-18:00 月曜日〜金曜日)

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会津若松市のホームページでも大々的に「オープンデータコンテスト」の開催告知がされ、活発にITを推進されている。

会津若松市では、人材の育成に注力しITベンチャー企業が育つ土壌もまた整いつつあるのでしょうか。

post_strong_01 ITベンチャー企業が育つ土壌がここ会津若松市に整うには、2つのハードルがあると考えます。最近の傾向として、親が子供たちをIT系の大学に通わせるということは、ただ就職させたいからという想いによることと感じます。それは、「会津大学に行くと就職できる!」ということでもあり、それはそれでとても大切な事と思います。でも、一昔前はただ「コンピューターが好きだ!」とか、そういう純粋な気持ちで志望する方が多かったように感じます。そのため、最近の会津大学卒業生の大半がIT系の企業が集まる東京での「就職」を目標にし、会津若松市から出て行ってしまいます。それが1つ目のハードルです。もう一つは、僕らの責任でもあると思うんですけど、会津若松市から生まれた大きな成功例というのがまだないため、「あっこうなったらこうなるんだ!」みたいな「ここ会津若松市からでも大きく活躍できるんだ!」というものをまだ皆に見せてあげられていなくて、まだこじんまりやっているレベルなんです。そこに2つ目のハードルがあるかなと思っています。
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もちろん、会津大学を出て東京の大手IT企業に勤めるという魅力は大いにあることだと思います。しかし、地方のITベンチャー企業で活躍し生計を立てられることが、いま地方にとって求められている大切なことだと秦さんはいいます。

post_strong_01 私たちのような、ITベンチャー企業が育つ土壌としては、会津若松市は他の地域に比べたら相当恵まれているとは感じます。なので、いま目指しているのは「地域のエコシステム(地域の中で人が循環するしくみ)」みたいなものを作りたいなと。当然、地域に魅力を感じないとなかなか地域に残ってもらえないですよね。そのため私たちは、ここ会津若松市で「育ち、学び、勤め、暮らして行ける」エコシステムを築くため取り組んでいます。
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秦さんの言う「地域のエコシステム」についてさらにうかがいます。

post_strong_01 今、会津若松市の学生や社会人の方々に対していろんな入り口を作っています。一つは、先ほどの「オープンアップラボ」でアプリケーションを学ぶという「技術(テクノロジー)」の入り口です。しかし、技術とは手段でしかないため、「行動 for 会津(CODE for AIZU)」というプロジェクトも推進しています。それは、実際に技術でどのように地域を良くして行けるのかを追求する場となる入り口です。そこでは、僕らみたいなエンジニアだけではなく、学生や、近所の商店街の方、自治体の方々もいらっしゃいます。まず、地域にはどのような課題があるのかを掘り下げ、その中で技術的な部分で解決できることはないのか?ということを話し、さらにそこに「オープンアップラボ」の人たちも参加してもらうんです。
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行動 for 会津(CODE for AIZU) は、市民目線での様々なテクノロジーを活用し地域課題解決を目指す。

IT技術を学べる入り口と、さらに地域の「課題」を皆で共有できる入り口。さらにこの2つの入り口の先にある出口に、技術で地域の課題を解決する「もの・こと」の繋がりがあるようです。

post_strong_01 地域の事(課題)を知り、「自分たちが学んだ技術で解決できることがあるんだ!」と気づき、自分達でもいろいろやれるということを体感してもらうんです。例えば「Fab蔵」でハードウェアを実際に作り、地域の課題を解決してしまおうと。「地域のエコシステム」を築き、それに僕らのような企業も参加し、地域に魅力を感じてもらった人たちが、会津若松市に残れるような受け皿を用意する。そうすれば、継続して人材の育成に注力し僕たちのようなベンチャー企業が育つ土壌もまた整うことになると思います。
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post_strong_01 あともう一つ言うと、福島は課題先進国だと思うんですよ。東京では巡り会えないような課題に巡り会えるということです。やはり福島は、東京と比べ地方ですからね。間違いなく人口比率もいち早く高齢化を迎えますし、俯瞰してみれば日本は後々全国的にこの課題にぶつかると思うんです。それと同じタイミングで医療不足なども懸念されるのでしょうし。そういった課題は、地方の方が進んで起きていると思うんです。それを解決したり、検証して行くのは地方から結果を出して行けることと感じています。それを踏まえると、私たちが推進するテクノロジーで、東京では取り組めないことを、先行して地方から取り組んで行けることともなるんです。
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地方発の最先端テクノロジーを牽引する「TheDesignium」が感じる、これからの「ものづくり」イメージについてお聞きしました。

post_strong_01 会社としては2つの側面があると思うんです。1つ目の側面は、「新しいことにチャレンジしないと何もノウハウを得られない」という意味合いで、センサー等のハードウェアやデバイスを扱っています。とはいえ、新しい「もの・こと」は世の中のほんの一部の人にしか受け入れられないことでもあるので、「今携わっている最先端クノロジーが2年後、3年後どのように世の中に落としこまれるか」を常に意識しています。そこが会社としての2つ目の側面にあたります。そのため、このようなセンサー系事業の1番大切なこととして、僕らはデータを集める事業を推進しています。なぜかと言いますと、現在はセンサーデバイスを通じて主に楽しんで遊べるコンテンツを先んじて作っていたりしますが、センサーデバイスはデータを集められるという視点を持ち合わせているためです。データを集め活かすという視点から皆に役立つ使用方法を深掘りして行かないと、ただセンサーデバイスを扱うだけでは会社としては成り立っていかないだろうと思います。ちゃんとデータ取得しクラウドで蓄積し、それをどういう風に皆に役立てるのか、使い方は多岐に渡るとおもいますが、データを「取得」し「蓄積」し「使用する」という3つをクリアーして行かないと、このようなセンサーデバイスという新しい事業・分野の本当の推進にはならないと思います。いろんなノウハウを得るために、エンターテイメント性の高い取組は大切なことなのですが、それだけではなく地域を含めた私たちの暮らしの中での課題解決につながる部分に技術的ノウハウを活かすことが、私たちのこれからの「ものづくり・ことづくり」だと考えます。
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多種多様なセンサーデバイスを使い、インタラクション、プロトタイピング、ソフトウェア開発を行う。

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Moffバンドを使い、ボクシングのように遊べるプロトタイピングのデモ実演。

これからも、最先端テクノロジーから私たちの身近なところで技術を活かす「TheDesignium」の今後の目標として、

post_strong_01 会津若松という地方から多用な分野で、技術的なノウハウを得ながら身近な課題解決をできる人をたくさん輩出してゆきたいですね。例えば、宮城県石巻市で行われたハッカソンで「TEL子ちゃん」というプロトタイプを作りました。これは電話をかけると音声が返ってくるという「Twilio」(ツイリオ)という電話のAPIを使用しており、電話をかけるとあらかじめ設定された答えを音声として返せることができるしくみとなります。現在その仕組みを利用しいろんな自治体で使ってもらおうと考えていて、この電話番号にかかってきたらこの文言の音声が流れるというような簡単なデータ入力・更新をするだけで、インターネットのできないお年寄りに対し「電話」を通じて自治体の情報を届けられ、しかも自治体の電話窓口業務の軽減もめざせるプロジェクトとして取組んでいたりします。しかもこのシステムであれば、地域の天気や行事の予定等も全てデータとして入力・更新さえすれば、電話から提供できるという訳です。さらには広報誌なども、電話をかけて情報が得られるということにも発展できます。こういった身近な課題解決ができる人をどんどん増やしてゆくために、いろんな技術やノウハウをこれからも追求してゆきたく思います。
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「TheDesignium」ロゴデザイン:全体的な視野でもって目的達成のためのストーリーを構想できる、そんな元素(=目的と才能を持つ人)が集まる空間を目指す、という意味で命名されたようです。

終始穏やかに話される秦さんですが、発する言葉からは私たちに大切な「もの・こと」の本質が明確に伝わってくるとても情熱的な方でした。その情熱は、最先端テクノロジーを推進しいかに皆の暮らしに役立てるかを追求するプロフェッショナルな目線と、地方発のITベンチャー企業として、地域の人の循環をカタチづくることをめざす「TheDesignium」の想いへとつながります。


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