大木 祐二
monofarm編集室
編集長
mononfarmウェブマガジン編集長を務め、monofarmの発起人でもあります。
未来のものづくりはどういった「コト」や「モノ」であるのかを通じて、みなさんとのつながりを求めてウェブマガジンを立ち上げました。
monofarmから新しいものづくりの芽がたくさん育つことを目標に活動中。

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「ありがとう」の気持ちを通貨にのせて。『国分寺地域通貨「ぶんじ」』
現在、東京都国分寺市を中心に『地域通貨「ぶんじ」(以下「ぶんじ」)』が流通しています。 そして、そこには人と人とをつなげてゆく、豊かなアイデアがとりいれられていました。

「ぶんじ」事務局、今田 順さん(以下、「今田さん」)にお話をうかがい、『地域通貨「ぶんじ」』とする取組みを通じて見えてくる、素敵な地域と人とのつながりについてみなさんにお届けいたします。

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「ぶんじ」事務局、今田 順さん

今回、取材場所となったのが、西国分寺駅近くにある「クルミドコーヒー」です。穏やかで物腰が柔らかく、とても紳士的な印象を持つ「ぶんじ」事務局の今田さんは、普段は「クルミドコーヒー」のスタッフであります。『国分寺地域通貨「ぶんじ」』の運営は、ボランタリーワークによって成り立っています。そのため、今田さんはパラレルキャリア(現在の仕事以外の仕事を持つことや、非営利活動に参加すること)として「ぶんじ」事務局も務めます。

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今田さんが働く、「クルミドコーヒー」の落ち着きのある店内


post_strong_01 「ぶんじ」が立ち上がるきっかけは、「カフェスロー」のオーナー吉岡 淳さんや「おたカフェ」のオーナー高浜 洋平さんらが、ぶんぶんうウォークという国分寺のお祭りの実行委員会を立ち上げる契機に構想し、2012年の第2回ぶんぶんウォーク企画の際にクルミドコーヒーの店主である影山が加わり、地域通貨構想チームのようなものが立ち上がりました
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「カフェスロー」さんは、monofarmウェブマガジンでも先日取材・掲載させていただき、『地域通貨「ぶんじ」』について少し紹介させていただきました。そもそも、「地域通貨」とはどういった定義とされるのでしょうか。


<地域通貨って?>
●特定の地域内(市町村など)、あるいはコミュニティ(商店街、町内会、NPO)などの中においてのみ流通する。
●市民ないし市民団体(商店街やNPOなど)により発行される。
●無利子またはマイナス利子である。
●人と人をつなぎ相互交流を深めるリングとしての役割を持つ。
●価値観やある特定の関心事項を共有し、それを伝えていくメディアとしての側面を持つ。
●原則的に法定通貨とは交換できない。
出所:重田正美「地域通貨の将来像: スイスの地域通貨「WIR」の事例を参考に」より


と定義されます。法定貨幣と同等の価値がありながら、さらに「人と人をつなぎ相互交流を深める役割」を持つことが「地域通貨」の最たる特徴です。「ぶんじ」も大きくこの役割を担います。

post_strong_01 「ぶんじ」は2012年9月からはじまり今年で2年目となります。2年間に「ぶんじ」が使用された枚数は約5800枚で、現在「ぶんじ」が使えるお店は22のお店や企画となります(2014年8月末時点)。ぶんじは地域内の通貨であると同時に、コミュニケーションツールとしても機能しているように思います。ぶんじがあることで、お店のスタッフと、お客さんの会話が生まれるということはよくあります。また、お店のスタッフ同士もぶんじに関わる前は、お店の名前は知っていても、中で働いている人の顔と名前が一致していなかったのですが、ぶんじを通じて、「○○というお店の△△さん。」「△△さんは、□□が好きらしい。」のような関係になっています。
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主に、「ぶんじ」は、地域のイベントのお手伝いに参加して手に入れるか、いくつかの加盟店舗でおつりとして受け取ることが出来ます。今年の11月23・24日(月・祝)には国分寺のお祭り 「ぶんぶんウォーク」が開催され、集中的にぶんじを手に入れることの出来る機会を増やそうとしています。

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ぶんぶんウォーク

post_strong_01 いままでの「地域通貨」はただ割引だけの役割とされるものが多く、「地域でしか使えないお金」という印象が広がり、楽しく使われていなかったのではないかと想像します。「ぶんじ」は楽しんで使えるものとしたかったため、「ありがとう」の気持ちを伝え、伝わり、つなげてゆける「地域通貨」であればいいなと思っていました。
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「ぶんじ」の券面の裏には、メッセージが記入できるスペースがもうけられており、使用する際に「ありがとう」の気持ちをメッセージとして残していくことがきます。使用された「ぶんじ」は破棄されるのではなく、受け取った誰かが、また次の誰かに「ありがとう」の気持ちを込めて贈る。そうして、裏面のメッセージ欄には「ありがとう」が交わされた、交換の軌跡が記されていく仕組みなのです。

post_strong_01 「クルミドコーヒー」のスタッフも、お客さまから「ありがとう」や「ごちそう様」のメッセージを記入していただいた「ぶんじ」を受け取ると、直接「ありがとう」と言ってもらえるときと、また違う喜びを感じているようです。僕も、もらうとすごく嬉しいですね。また、最近では「ぶんじ」は身近な人への感謝の気持ちを伝える手段としても最近使用されています。例えば、友達から借りた本を返すときに「ありがとう」のメッセー ジを記入した「ぶんじ」を本に挟んで返したり。普段はちょっと恥ずかしかったり、なかなか伝えられないことを伝える、一種のコミュニケーションツールにもなっていますね。
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「ぶんじ」の裏面には、コミュニケーションの輪が広がっている

「ぶんじ」が循環しているしくみのひとつに「農業プロジェクト」があります。これは「ぶんじ」の取組みより生まれた好例として今田さんは話されます。

post_strong_01 国分寺の中村農園の中村克之さんが「ぶんじ」に興味を持ってくださり、お店がお野菜を仕入れる支払いの一部にぶんじを使わせていただいたことがきっかけで始まりでした。中村さんは援農ボランティアに来る方に「ありがとう」の気持ちの載せてぶんじをお渡しし、援農ボランティアさんは飲食店での支払いの一部にぶんじを使用。自分が手をかけた野菜を使ったメニューを飲食店で味合うというひとつの循環が生まれたのです。その後、ぶんじを使いたいと言ってくださる農家さん飲食店が少しずつ増えており、今では面的な広がりを見せています。
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~ぶんじと農業で新しい循環を作る~

このサイクルが地域で確立されることで、地域独自の経済が回り始めています。そこには、「貨幣経済」だけではない、「感謝の気持ち」も載せられます。実はそこに、貨幣価値以上のものを見いだしているのかもしれません。

「ぶんじ」が現在のように活性化されるまでには、一朝一夕ではない苦労もあったようです。

post_strong_01 「ぶんじ」の運営はボランタリーワークであり、関わるメンバーや加盟店の方々も本業がありますから、「ぶんじ」だけというわけではもちろんありません。そのため、「ぶんじ」の取組みの柱として定例会を開催し「ぶんじ」についての意見交換の場をもうけています。毎回15人は集まっていたものが、時期によっては3人しか集まらないといった時もありました。そんなときでも、隔週の定例会の脈を止めずに打ち続けてきた事が、今の「ぶんじ」につながっているのかなと感じています。
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今田さんより「ぶんじ」の取組みを通じて感じる、暮らしを豊かにする「ひと・こと・ものづくり」のアイデアについてお聞きしました。

post_strong_01 「ぶんじ」の目指すところの1つには、「交換原則(経済の原則)」を見直すということがあります。通常の経済では、売上を立てるために、この人からは、これぐらいの利益が欲しいから、このくらいの値付けやサービスを行おうといったように、「Take(得ること)」を先に考えることが定石とされます。
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今田さんはこうつづけます。

post_strong_01 「GiveやGift(与えること)」が先行した「交換原則(経済の原則)」というものがあり得ないのだろうかと考えています。もともと、「物々交換」において、「良い物があるからあの人にあげよう」というような贈る気持ちが先行していたのと同じように、「私達はどのくらい気持ちがこもった仕事を贈ることができるのか」「どれだけの事を与えることができるのか」といったことを先に考えられるような循環が実現しないだろうかと考えています。ぶんじは、そんなGiftから始まる交換原則のきっかけになればなぁと思っています。「ぶんじ」の「ありがとう」のメッセージのように、お互いに「感謝の気持ち」を伝え・与えることができれば、そのさきにある「ひと・こと・ものづくり」のありかたも変わってゆくと思います。現に「農業プロジェクト」を通じ、相互のコミュニケーションが活性化されたことで、農家さんの野菜作りにおいて新たな気づきが生まれたり、新しい取組みにもつながっています。実際、「美味しかったです」とイラストの描かれたぶんじをもらうと、スタッフはもちろん受け取って嬉しいですし、これを農家さんに見せなきゃ!という気持ちになるんですよね。このような「何かを与えようとする心の情動が、また次の「与える」気持ちを呼び起こし、波及する。」という純粋な人間の動機は信じられるのではないかと思いますし、こうして交換が起こると、つくるモノ・コトの熱量も上がり、質もよくなると思うんですよ。なんかちょっと大げさですけど。
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『地域通貨「ぶんじ」』イメージ(「ぶんじ」ホームページより

純粋な人間の動機となる「感謝の気持ち」を伝え・与え、そのさきに広がる「ひと・こと・ものづくり」が、暮らしを豊かにしてゆく。とてもシンプルでありながらも、私達の暮らしを形成する全てが「人と人の気持ちのつながり」であれば、その「気持ち」をつなぎとめるものが「感謝」であり、「もの・こと」の本質 であると感じます。私も、そのさきに広がる「ひと・こと・ものづくり」のありかたに期待します。

最後に、今後の「ぶんじ」のありかたとして、地域の「駆け込み寺」のような存在になれればと今田さんは話します。

post_strong_01 誰かが、「このまちで、こんなことやりたい!」って思ったとき、どこに相談すればいいかわからない。 「あ、やっぱり無理なのかも…」と、なかなかもやもやを打破出来ないというようなこと、結構あるかと思うんです。そんなときに、「あ、ぶんじなら、なんとかなりそうかも!」と思って相談してもらえたら嬉しいですね。現に、少しずつそういうお声もいただいていてもいます。バラが咲き誇る屋上庭園でクラシックのコンサートが実現したり、ロゲイニングと呼ばれるまち歩きの企画が実現したりということがありました。地域の駆け込み寺のようなそんな役割を期待されているのかもと勝手に感じることはありましたね。ぶんじがそんな存在であれば、まちも面白くなるのかもしれません。
そして、直近では、11月23日(日)、24日(月・祝)には、ぶんぶんうぉーくと呼ばれるお祭りがあるのですが、そこでは、集中的にぶんじの交換の回数を増やしたいと思っています。具体的には、ぶんじを手に入れることの出来る機会・使うことの出来る機会を増やそうとしています。 つまり、単純化すると、交換の回数が多ければ多いほど、より多くの人が、誰かのため、まちのために汗をかき、また、その仕事や行為に対して「ありがとう」の気持ちを贈ったということになるかと思います。まずは、少し集中的に交換の原則をかえるチャレンジをしてみて、その後、日常においても、少しずつ交換のありようが変わっていく。そんな妄想を膨らませております。
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国分寺地域通貨「ぶんじ」
クルミドコーヒー

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